本格ミステリ大賞公開開票式レポートもどき

録音、録画などしていないので完全に記憶便りです。ちなみに僕は記憶力がかなり弱いです。そしてかの有名な熱力学第二法則(Entropy増大則)も忘却を支持しています。なので誤りも紛れ込んでいます。不確かなこともあります。以上のことを念頭に置いて読んで下さい。

それは(たしか)4月19日のことでした。アパートに帰ると郵便受けに何かが挟まっていたのです。郵便物があること自体珍しいので、暗闇の中で裏面を見るとなんと「本格ミステリ作家クラブ」の文字が! 部屋の電気をつけるとすぐさま開封しました。中身についての説明はもはや不要でしょう。でも自慢のためにします。まさか当たるとは思っていなかった本ミス大賞公開開票式の招待状でした。北村さんの署名があったということは特記しておくべきかもしれません。開票式は5月11日金曜日の16時開始。時間割を確認するとなにやらよからぬことが書いてありました。が、しばらく考えたあと万難を排し開票式に参加することを決意しました。

この段階における教訓
「当たらないと思っても応募はするべき。その行為は当選確率を無限倍にする」
「あらかじめ金曜日の午後の予定を確認しておくべき」

前々回の開票式に参加した都鞠さんに「どの作家さんが来られますか?」とアドバイスを求めると、「執行部の人たちと関東圏の候補。過去のレポにあった人も考えておくべき」とのことでした。作家さんの顔も住所も知らないな、と思いつつリスト作成の上臨時収入を本に変換していきました。現在住んでいる地域の書店だけではリストのコンプリートは難しいかな、と思ったので実家に帰省するという名目で都会の書店に行ったりもしました。

そんなこんなで5月11日がやってきました。リュックに本を詰め、いざ東京へ。
本が入りきらなかったらラケットバッグにでも入れようかと思っていたのですが、それは杞憂でした。でも20冊程度持っていったのでリュックはふくれあがっていました。思い本を運搬するための最低限の体力だけはつけておくべきでしょう。

道に迷うこともなく式場に到達しました。テーブルには作家さんと思しき方々がちらほらと。(あくまで顔を知らないと言うことを強調しておきます)あ、でも1人だけ知った顔が見えました。黒田研二さんです。以前お会いしたこともあるとても良い人です。皆さん黒田さんの本を買いましょう。(宣伝を強要されたわけではありません)エレベーターの中で知り合った読者の方とどうすれば良いのかと戸惑っていると、どなたかの「北村さーん、いや、会長、会長」との声。会長って呼ばれるのはきっと気恥ずかしいものでしょうね。僕はそう思います。そしてにこにこ笑いながら北村さんのご登場。そして席に案内されました。前情報通り最前列。事前情報により最前列であることは知っていましたが、心の準備ができていなかった本当に焦ったでしょうね。北村さん、黒田さんから「開票式までは時間があるのでサインをどうぞ」とのお言葉。待ってました、とばかりにリュックの中から本を取り出します。作家さんたちの顔が分からない僕に北村さん、黒田さんが協力してくれました。

そうこうしているうちに16時、開票式の開始です。まずは北村会長の挨拶。
挨拶中の「負け続けないひいきの球団があれば(中略)幸せだ」ってそれは、某虎のことですか。(笑)数年前までは幸せじゃなかったんですか? とも思いましたが和やかな雰囲気で挨拶は終わり。挨拶が終わるとすぐさま開票が開始されました。開封が歌野さん、字数などの確認が篠田さん、法月さん、東川さん、読み上げが綾辻さんでした。進行の様子は綾辻さんから説明がありました。

小説部門と評論・研究部門は同時に開票されましたが、説明の都合上分離します。
さて小説部門です。
やはり道尾さんの『シャドウ』が強く、11票程度まで抜け出しました。その時他の作品は5票以下だったでしょうか。『樹霊』になかなか票が入らずやきもきしたのを覚えています。これで決まりかな、と思っていたら京極さんの『邪魅の雫』が猛追をかけます。たしか9票ぐらいまで追い上げました。さぁ分からなくなったな、と思いきや『シャドウ』がまたもや突っ走りました。

次に評論・研究部門です。
こちらはあまり書くこともない気がしますね。初めの方は笠井さんと巽さんが並んでいた、のですが途中から巽さんが抜け出しました。そのまま巽さんの圧勝。

各作品の獲得票数は先日upした通りです。

開票式は30分程度で終わり、綾辻さんから受賞作を発表。「見ての通りです。(中略)他の作品の票数も読み上げなきゃいけないんですか?」ちょっと気楽すぎじゃないですか? いや、あれぐらい気楽な雰囲気でないとこちらは気後れしてしまうのですが。「今度のジャーロでは綾辻×道尾対談もあるのでぜひ」とのことです。

17時30分から記者会見があり、それにも参加して良いとのこと。それまでの1時間は自由にして良いということでした。自由って一番難しいですね。
このときにもいくつかサインをいただきました。それでもやはり1時間は長いものです。招待された読者数人でうろたえていたのですが、黒田さん企画の写真ツアーなど本当にお世話になりました。黒田さんも編集者の方々に売り込まなきゃいけないのになんだか悪いね、というような会話をしていましたが接待役だったようです。そんなこんなで一同道尾さんの到着を今か今かと待ちわびていました。小脇に本を携えながら(笑)

17時20分頃だったでしょうか、道尾さんが到着しました。黒田さんから若く見えると聞いてはいたものの、まさかそこまでとは。到着後は乾杯、そして記者会見となりました。合間を狙ってサインをいただきました。

さて記者会見。会場は開票式と同じです。録音もされているし記者がいる、はずなんですが雰囲気は開票式の時とあまり変わらなかったような。段取りの確認を会見中に僕らの面前でやってくれるほど穏やかなもので、緊張せずにすみました。会見は綾辻さんからの大賞の発表、道尾さんの挨拶・質疑応答、巽さんの挨拶の法月さんによる代読といった感じでした。道尾さん・巽さんの挨拶、および発言も大まかなものは覚えていますがこういう類のものは雑誌かなんかで読んだ方が良い気がするのでここでは割愛します。綾辻さんに対して「選評はどのようなものか」という質問がありました。本ミス大賞だとそれは答えられないだろう、と思っていたら案の定でした。結局『シャドウ』に投票した人がなぜ選んだかを軽くしゃべろう、という感じになりました。前の方にいたのは綾辻さん、佳多山さん、北村さん、法月さんだったでしょうか。
綾辻さん「私は邪魅に入れた」
北村さん「私は樹霊」
という感じで『シャドウ』に入れた人が出てきません。「一番多いはずなのに」っておっしゃった方がいますがまさにその通り。最終的には部屋の後ろにいた黒田さんがコメントしていました。「『向日葵の咲かない夏』の方が好きなんですが(以下略)」みなさんもしかして笑いを取りに来たのですか?
こんな雰囲気のまま記者会見(?)も終了。お疲れ様でした。

というわけで全行程を終了し、読者でダマになって帰途につきました。途中「二次会の場所は分かりますか?」などと聞かれたときに「私たちは読者ですが」と言ったのは失敗だっただろうかなどと話しました。うまくだませば(笑)二次会に潜り込むこともできるかもしれませんよ。

芦辺さん、綾辻さん、乾さん、歌野さん、大倉さん、佳多山さん、北村さん、黒田さん、篠田さん、法月さん、道尾さんにサインをもらいました。絶対に来る、と読んでいた有栖川さんは来ておられませんでした。残念ながら『川に死体のある風景』のサインコンプリートは成功しませんでした。ただ大倉さんに「ここまで集まった人は初めてではないか」ぐらいのことを言われたので今後がんばってみようと思います。他に来ていらっしゃったのは霧舎さん、辻さん、二階堂さん、杉江さんなどでしょうか。本を持っていなくてごめんなさい。会場にて来た作家さんの本を売ってたら絶対に買うのに、とも思いました。たとえその本を既に持っていようと、たとえ倍の値段がついていたとしても。

無駄に長いな、この駄文と思いながらさらに付け足します。ただの感想です。行けて良かったな、というのが一番大きいでしょうか。作家の方とお話できる機会なんて普通では考えられません。数式をいじくるだけの日常からの逃避を無事果たせました。開票中には統計誤差なんて言葉が頭の中にありましたけどね。お相手して下さった皆さん、本当にありがとうございました。こんな変なことがあったということばかりクローズアップして書いてありますが、挨拶などの冒頭で笑いを取った後は皆さんうまく話をつなげ、きちんとまとめられていました。さすが、僕にはそんなことできません。さて、こんなもんで宣伝になったでしょうか。楽しかった、貴重な体験ができたということだけでも伝わればよいのですが。

最後に受賞作について。僕は順位を『シャドウ』、『樹霊』、『時を巡る肖像』、『顔のない敵』、『邪魅の雫』の順だと予想していました。綾辻さんに「誰が取ると思う?」と聞かれたときに『シャドウ』と『樹霊』の一騎打ちではないかと言った覚えがあります。僕の中での本格への漸近度の最も高い作品は? と問われれば『時を巡る肖像』と答えたでしょう。ただ、優れた本格を顕彰するための賞とはいえやはり作品のおもしろさが第一になってくるのではないでしょうか。この観点でいけば一番だまされた『シャドウ』が大賞にふさわしいのではないか、と思っていました。というのが自己紹介で「好きな作家はエラリー・クイーンとバーナビー・ロスの2人です」などと言う人間の意見だったりします。

おもしろいミステリが読めれば幸せです。僕の場合は、それが本格であれば余計に幸せです。これからもおもしろい本格ミステリがたくさん読めますように。